4-1. 細菌がもつ自己防衛手段:制限と修飾
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1) 現象の発見
大腸菌にファージ(バクテリオファージ)が感染するとファージDNAやファージタンパク質が中でつくられ、細胞内にファージ粒子が形成され、細胞を壊して外に出てくる
制限
大腸菌の株によってはファージに抵抗性を示すものがある
e.g. λファージに対するC株大腸菌
ところが、制限を受ける組み合わせでもわずかに増える、修飾されたファージが出現する場合がある
増えるようになったファージは次に同じ株の大腸菌に感染すると、今度はよく増えるようになる
宿主
ウイルスや寄生生物が増える細胞や個体
宿主支配性制限修飾
免疫機構を持たない細菌が、ファージに対する自己防御システムとしてもつ制限と修飾がかかわる現象
細菌に広く見られる
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2) 制限と修飾の実体
制限酵素(restriction enzyme)
制限の実体は、細胞抽出液がファージDNAを分解するという現象の発見からDNA分解酵素であることがわかった
制限酵素はDNA内部を特定配列に従って切断するエンドヌクレアーゼで、制限エンドヌクレアーゼともいわれる
DNAメチラーゼ(DNAメチル化酵素)
修飾の実体
制限酵素にによって切断されないようにメチル化されるDNAの化学修飾
ある特定の組み合わせの制限酵素とDNAメチラーゼは細胞内に共存するため、宿主細胞は制限酵素をもっていても自身のDNAは保護されているので分解されることはない
他方、メチル化されていないDNAをもつファージは、侵入してもファージDNAが消化されてしまうため、ファージは増えない
上述の修飾されたファージは、たまたま修飾が先行したために生き残り、次回の感染では分解を受けず通常通り増えたのである
制限修飾系は日本でも発見されていた
制限修飾はW.アーバー(ヴェルナー・アーバー)が1960年代の前半にP1ファージやλファージと特定の株の大腸菌を使って発見した現象
慶應義塾大学の渡辺力は当時、抗生物質耐性遺伝子をもつR因子の研究をしていた
R因子は渡辺らによって発見されたもので、日本が世界に誇る、分子遺伝学の最先端研究だった
1960年代の後半、渡辺らは研究の過程で、R因子保持菌にファージを感染させても感染できないという不思議な現象を発見した
渡辺はこの現象を宿主依存性制限と呼んだが、これはアーバーらが見つけた現象と同等のものであった
続いて渡辺と高野利也により、ファージDNAがR因子をもつ菌によって特異的に分解されることが突き止められた
R因子が制限酵素をコードしていることはその後まもなく証明されたが、彼らはまさに制限酵素の尻尾を掴んだのであり、しかもそれはアーバーらが制限酵素の精製に成功する以前のことであった